映画「フロントライン」を観て 自分の感慨
2025.07.29
先日「フロントライン」という映画を観てきました。COVID-19の初期の頃、横浜港に停泊していたダイヤモンドプリンセス号内で起こった新型コロナクラスターに立ち向かう医療者の話です。映画を観ながら、思えば私(野本一臣)も2020年の12月にあるグループホームで発生した新型コロナウイルス感染のクラスターに一人で果敢にも挑戦して行ったことを思い出しました。当時は今のように15分で検査結果がわかるコロナ抗原検査はなかなか簡単に使えず、PCR検査が主流の時代で、しかも保健所に検体を届け、結果が出るまで最短で1日
数カ所でクラスターが多発すると結果が出るまで4日はかかりました。ワクチンは開発中の段階で、治療薬もレムデシビルしかなく、グループホームではとても使うことができませんでした。
私は入居者、職員全員のPCR検査を行い、また重症になっていく方の治療をグループホームという極めて特殊な状況の中で行いました。誰が感染しているのかもわからない状況で、N95マスク、ガウン フェイスシールド、キャップをつけ、手袋は二重にして、PCR検査を行いました。また入居者の最重症者はほとんど経口摂取ができず、酸素飽和度も70%台になり点滴、酸素吸入を開始しました。点滴は血管確保が難しく血管に入った針も、その方が腕の方向を変えると血管の壁に針が当たってしまい点滴が落ちなくなりました。仕方なく、4-5時間は患者さんのベッドの傍で点滴が止まらない様に腕を押さえていました。
正直がところ「自分も感染して、その時は重症になるのか、まさか死ぬことはないだろうな」ということが頭をよぎりました。
検査して4日目に最重症者のPCR陽性がわかり、すぐに指定医療機関へ搬送になりました。
最終的に私の担当したグループホームでは8人いた入居者全員が感染し最終的に4名がお亡くなりになりました。職員も10名中7名が感染、うち一人が重症になりました。
そしてその後行った私のPCR検査は陰性でした。その時はなんとも言えない気持ちになりました。まずはこれでなんとか家に心配せず帰れる、でもこれからこの感染症はどうなっていくのかなど安堵と心配の入り混ざった気持ちでした。
今からから振り返れば、本当にいい経験だったと思います。今後また同じ様なパンデミックが来るかもしれません。その時のために拙文ではありますが、この経験を論文にしました。ご興味のある方はお読みください。
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野本一臣:新型コロナウイルス肺炎の初期治療をグループホームで行った1症例 ─グループホーム内での感染対応について─.日臨内科医会誌,37(5):409-411,2023